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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)456号 判決 1957年12月27日

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

職権をもって調査するに、

本件は第一審裁判所が被告人に対し本件公訴事実第一乃至第三の犯罪については、いずれもその証明不十分であるとして、無罪の言渡をしたのに対し、検察官が原裁判所に控訴の申立を為し、原裁判所は右の事実はすべてこれを認める証拠十分であるとして第一審判決を破棄して、刑訴四〇〇条但書に基き被告人に対し有罪の判決をしたのである。

しかしながら、記録によって、原審における審理の経過を検討するに、原審は、第一、第二の公訴事実については、みづから事実の取調を行うことなく、第一審判決を破棄し、専ら、第一審裁判所の取調べた証拠のみによって犯罪事実の存在を確定し、有罪の判決をしたものであることはあきらかである。かくのごときことは、刑訴四〇〇条但書の許さないことろであることは、すでに当裁判所の判例の示しているところであるから(昭和二六年(あ)第二四三六号、同三一年七月一八日大法廷判決)、弁護人小風一太郎の上告趣意に対する判断をするまでもなく原判決は破棄を免れない。

よって、刑訴四一一条一号、四一三条に則り主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官藤田八郎の補足意見があるほか全裁判官一致の意見によるものである。

裁判官藤田八郎の補足意見は左のとおりである。

本件において第一審は、本件各公訴事実については、その証明がないとして、被告人に対し無罪の判決をしたのに対し、検察官は、控訴の申立をした。そこで、第一審は右検察官からの控訴申立通知書を高崎市並榎町清水文男及び同市下和田町笹川一昌宛をもって、被告人に郵便に付して送達したのであるが、右通知書が被告人に到達したことは記録上認められない。また、原審は、被告人に対し、訴訟記録受領通知書、弁護人選任に関する通知書、控訴趣意書謄本、各公判期日召喚状、証拠調決定謄本、をいずれも前記清水文男方に郵便に付して送達したのであるが、右各郵便はいずれも送達不能で返戻された。尚原審では、被告人のために弁護人を選任し、同弁護人は原審に答弁書を提出した上、原審公判に出頭し証人尋問及び検証(第一審判決第三事実に関し)に立ち会っているのであるが、原審は、被告人不関与のまま、審理をつづけ、遂に被告人を有罪とする原判決をするに至ったものであることは記録上明らかである。

しかして、本件において、被告人が刑訴規則六二条所定の届出をしていないことは記録上明白であるから、被告人が一審の無罪判決言渡によって、刑務所を釈放された以後においては、同規則六三条の規定するところに従って、被告人に対する書類は書留郵便に付して送達することができるとの解釈が正しいとしても、(無罪判決によって釈放された被告人も判決の確定に至るまでは同規則六二条による届出の義務があると解すべきか、また、被告人無罪の言渡を受けた場合検察官の控訴申立通知書は、同規則六三条一項但書所定の起訴状と同視し、同条の例外をなすものと解するのが妥当でないか等の問題はあると思うが)書留郵便に付する送達といえども、被告人の住所、居所、営業所又は事務所に宛てて発送しなければならないことは民訴一七〇条二項、一六九条一項、刑訴五四条の規定するところであるにかかわらず、一審が検察官の控訴申立通知書を送達した場所ならびに原審が前記各書類を送達した場所が被告人の住所居所等に該当することはこれを知るべき何等の資料もないのである。して見れば、右各書類の送達は、違法であるというの外なく、結局、被告人は、適法に控訴申立のあったことを知らされることなく、控訴審における審理判決を受けたことに帰着するのであって、かくては控訴審の手続はすべて違法に帰するものと断ぜざるを得ない。自分はこの点からも原判決は破棄せらるべきものと思料する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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